• TOP
  • レポート
  • データ活用を成果につなげる組織の条件とは?

キャリア・教育

2026.03.30

データ活用を成果につなげる組織の条件とは?

専門家・事業現場・支援の三者対談で考える

データ分析の重要性は理解していても、分析結果を現場の意思決定や売場の改善に活用しきれていない企業は多いのではないでしょうか。本対談では、イオングループにおける事例を通じて、分析から売場改善までをつなぐ実践的なプロセスと、実行まで伴走するイオンマーケティングの支援の在り方を紹介します。

(中央左)滋賀大学データサイエンス学部教授・河本 薫氏。組織におけるデータ活用理論の第一線で研究に取り組む。
(中央右)イオンビッグ株式会社・佐野 貴士氏。小売の現場でデータ活用を推進する。
(右)イオンマーケティング株式会社・西村 一彦氏/(左)同社・谷道 信二郎氏。支援会社の立場から、分析結果を施策に落とし込み、現場での実行まで伴走する。

1. データ×AI活用のカギは意思決定の仕組みや文化

多くの企業でデータ活用が推進される中、最近注目したトピックは何か――

佐野氏: 製造業で、AIを使って供給や配車を最適化する取り組みが進んでいるというニュースを見て、小売でも「データ×AI」でできることはもっとあるはずだと感じました。豊富なデータをAIで活用し、成果につなげている企業が増えてきており、私自身とても刺激を受けています。

河本教授:そうですね。一般的に製造業は“モノ”が相手なので課題やプロセスが比較的見えやすい。一方、小売は“人”が相手で現場ごとに状況が異なるため、データ活用の難易度が高くなります。こうした場合、データやAIの活用が進むかどうかは、技術そのものよりも意思決定の仕組みや事業文化に左右されやすいのです。その結果、同じ会社の中でも、工場ではデータ活用が進んでいる一方で、マーケティング部門は遅れがちになるといった差が生まれる場合もあります。

2. 品揃え最適化の成功要因は「活用までの伴走」と「減らす判断」

イオンビッグ×イオンマーケティングの取り組み事例――何が成果を後押ししたのか

佐野氏:小型店の品揃え最適化に取り組みました。スペースが限られる中で、従来はバイヤーの経験に頼って「これは要る」「これは要らない」と判断していた部分が多くありました。今回は、イオンマーケティングさんの分析を基に、“買われ方”で商品を分類し、缶詰売場の最適な商品構成を検証しました。象徴的だったのがマッシュルームです。これまでは「ホールもスライスも必要」と考えていましたが、データで見ると、実際はスライスだけで十分でした。
バイヤーの仕事で最も難しいのは、“増やす”こと以上に“カットする”判断です。売上が低いから切っていいのか、カットしたことでお客さまが他店に流れてしまうのではないか――そうした懸念が常につきまといます。今回の分析では、買い回りやスイッチングのリスクを可視化でき、バイヤー間の判断のばらつきが減った点も大きな成果でした。数字も好調で、実験店舗として成果を確認できました。
一方で、数字には変数が多く、販促の有無や競合状況の変化なども影響します。限定的なデータだけでミスリードしないよう、見方には注意が必要だと考えています。

谷道氏:分析側の立場からすると、プロセスをきちんと踏めば、ファクトとして正しいデータは必ず出てきます。ただ、それだけでは現場が動かないことも多い。
分析 → 読み解き → 伝達 → 売場反映という一連の流れを、最後までつなげることが何より重要です。今回も、私たちは“分析結果”に“読み解きの見解”を添えて佐野さんにお渡しし、そこに現場の知見という“熱”を入れていただくことを意識しました。この“熱”があってこそ売場に反映されるため、分析と売場の間にあるプロセス、そして分析側と現場側の連携を特に重視しています。読み解きについては、将来的にAIで一定の標準化が進むと思いますが、現時点では“人の翻訳”が欠かせません。

河本教授:この事例の成功要因は二つあります。
一つ目は、支援側が“分析して終わりではなく、活用までが仕事”という姿勢で深く入り込んだこと。
二つ目は、商品ラインナップを減らすという意思決定を実際に行ったことです。
うまくいかないケースでは、分析側がデータ分析までを仕事の範囲とするため、現場の課題とズレる、あるいは現場側が分析結果に対し「本当に100%大丈夫?」と確信が持てず、試されないまま終わることがよくあります。両社のお話を聞く限り、今回はその壁をきちんと乗り越えられていたと感じました。

3. 支援側と現場側で“課題と目的”を揃える

活用が難航したケースは?課題はどこにあったのか

佐野氏:目的が曖昧な分析は、どうしても苦戦します。分析結果が出たときに、「売場はどう変わるのか」「数字や行動は変わるのか」と問いかけて、答えに迷ったり、変わらないと感じたりするなら、目的が定まっていないということです。従業員にも「分析は手段。目的が明確でない分析はやってはいけない」と伝えています。
その点、今回の取り組みでは、データで何をどう変えるのかを共有しながら進め、分析結果をもとにした現場への落とし込みまで具体的に提案いただけた。ここが、これまでとの大きな違いでした。

西村氏:私たちも、重要な事は目的設定、目線合わせであると考えています。中々良い結果に結びつかない場合は、分析自体が間違っているという事よりも、分析の目的が現場の実情やニーズと合っておらず、その先に進まないことが多いです。このため、イオンマーケティングでは取り組みを始める前に丁寧にヒアリングを行い、両社で“目線合わせ”を行うことを心掛けています。
また、「データ活用」と一言で言っても、立場やスキルなどで「粒度」の違いあります。詳細なデータを見たい方もいれば、必要なポイントだけを確認されたい方もいるので、データの提供方法も、使う人に合わせて柔軟に工夫する必要があります。
膨大なデータも、目的や意思がなければ単なる数字の羅列にすぎません。意味づけを行い、活用へつなげる仕組みづくりが欠かせないと考えています。

河本教授: 現場から上がってくる課題が、本来の課題からズレていることは珍しくありません。また、データを活用する現場の方は、往々にして、データ分析でホームランを打てると思い込んでいます。データ活用は、ホームランを打つためではなく、打率を上げるためです。1回の失敗で「データ活用はダメだ」と決めつけない、そうではなくて、現状と比べて少しでも打率を高めれば良いという意識づくりが、データ活用を定着させる前提になります。

4. 現場×支援は“互いの現場理解”から

現場側と分析側の“ズレ”を生まないための具体策とは

河本教授:たとえば“交換留学”のような取り組みです。事業側の人が分析側に1年、分析側の人が現場に1年入る。お互いの現場に触れることで、見立ての精度は格段に上がります。分析担当者に「小売現場の課題を見つけて」と言うだけでは難しいですし、現場に「データの見方を身につけて」と求めても簡単にはいきません。大事なのは、互いの立場に立って想像力を働かせながら、知見を“持ち寄れる人”を増やすことです。

谷道氏:私たちも現場に入らせてもらい、日々の意思決定に伴走する機会が増えてきたのですが、そのおかげで提案の質が変わったと感じています。定例ミーティングだけでは“点”でしか見えないものが、日々のミーティングに参加することで、「出した分析がどう形になるのか」「形にするにはどんな示唆が必要なのか」が見えてきます。一方で、現場の熱に入り込みすぎて解釈が歪まないよう、一定の距離感を保つことも意識しています。

西村氏:データだけでは見えない部分を補うのが、まさに河本先生の仰る“想像力”だと思います。「相手の仕事をどこまで理解できているか」「課題の視点が揃っているか」は、イオンマーケティングとして、そして私たちコンサルティング本部として、非常に大切にしたい事であり、大切にしている姿勢です。

5. “分析”を“成果”へつなげる組織3つの条件

組織全体として、データ活用によって成果を出すためのポイントは何か

河本教授:データ活用で成功する組織には、三つの共通点があります。
一つ目は、社員全員が「正しい動機」を持っていること。
データやAIの活用はあくまで手段で、目的ではありません。企業の成長や売上・利益の向上というゴールを共有したうえで、「そのためにどんなデータが必要か」「どう活用すべきか」を議論できることが重要です。
二つ目は、「なぜ?」を問い続ける文化があること。
日頃から会議等で「なぜ?」を重ねる組織は、問題を深く掘り下げ、本質的な課題設定ができます。課題の明確化こそが、データ分析・活用のスタートラインです。
三つ目は、越境型人材を育成していること。
現場経験とデータ分析の双方を理解する人材がいる組織は、より実践的な分析が可能になります。専門職であっても専門領域だけに閉じず、現場を理解する姿勢が分析の質を高めることにつながります。

佐野氏:おっしゃる通りだと思います。特に二つ目の「なぜ?」を問い続ける文化は、現場側の反省点でもあります。これまで小売として売場づくりの知識は教えてきましたが、データ分析を体系的に学ぶ機会が少なかったため、「なぜ?」と問われても答えきれない場面が多いのが実情です。だからこそ今、前段の教育や文化づくりの必要性を社内で問題提起しているところです。

谷道氏:コンサルティング本部では、配属後まず企業分析を徹底してもらいます。入って最初の3カ月で担当企業を分析し、「何が課題で、どんな打ち手を提案すべきか」を整理。その後、社内部長陣に30分でプレゼンし、「なぜそう言えるのか?」を徹底的に議論します。分析力だけでなく、相手を知る姿勢を鍛える狙いです。

西村氏:相手を深く理解すること、そして分析側自身が分析の目的と必要性を理解し納得した上で進めることが重要だと考えています。私たちは、オーダーへの御用聞きで終わらせず、活用まで伴走する体制を標準にしていきたいと思っています。

6. 人材育成・体制整備・AIの実装でデータ活用を加速

それぞれの立場から、今後のチャレンジは何か

佐野氏:現状、社内にデータを統括する責任者が明確ではなく、推進体制も未整備です。ただ、戦略的にデータ活用を導入する必要性は社内で共有されつつあり、いま体制整備を進めています。チャレンジしたい従業員も多いはずなので、仲間を募ってまずは社内で広げ、さらにグループ内へ拡大していくことを目標にしています。

谷道氏:小売のデータ活用はこの数年で急速に進展しており、イオングループ内でもニーズの高まりを実感しています。今後はAIによるデータの読み解きの標準化や可視化をさらに進め、現場のスピード感に合わせた支援を強化していきたいです。

西村氏:ポイントは可視化と再現性です。何を行い、何が変化し、どのような効果があったのかを見える形で残し、横展開する。AIで自動化できる部分と人の読み解きをどう掛け合わせるか——再現性をつくる設計がポイントだと考えています。

佐野氏:まさに再現性です。河本先生がおっしゃった通り、データ活用はホームランではなく打率を上げる営み。小さな成功体験を積み重ねて標準化し、収益につなげる。この流れを確立していきたいです。

河本教授:データ活用は“ガラッと変わること”ではなく、変わり続けることを粘り強く続ける営みです。核となるのは人づくり。時代が変われば求められる人も変わる。だから、学び続け、越境し続ける仕組みをぜひ育ててください。

 

組織におけるデータ活用に向けては、(1)動機の正しさ、(2)「なぜ?」を問い続ける文化、(3)越境を含む人材育成――この三点が、“分析”を“成果”につなぐ前提条件であることが明確になりました。
イオンマーケティングは、分析で終わらせるのではなく、現場で使える施策設計から実装・検証まで伴走し、成果創出の確度を高めます。今後もグループ各社と連携し、具体的な現場施策の推進と、再現性のあるデータ活用モデルの構築に取り組んでいきます。