トレンドレポート
2026.03.30
なぜこれが売れたのか――2025年のヒットからつかむ“次の兆し”と市場トレンド
『日経トレンディ』発行人が解説・第1回


2025年のヒット商品を振り返ると、目新しさよりも「失敗しにくさ」「安心できる」点が共通項でした。その背景と変化の兆しから、2026年に消費や売場の行方を、『日経トレンディ』「日経クロストレンド」発行人・勝俣哲生氏に聞きました。
第1回では、ヒットの兆しの捉え方と、2025年にヒットした商品・サービスの特徴を語っていただきました。
株式会社日経BP
勝俣 哲生氏
『日経トレンディ』「日経クロストレンド」発行人
株式会社日経BP
勝俣 哲生氏
『日経トレンディ』「日経クロストレンド」発行人
大学卒業後、人材サービス企業を経て2005年に日経BP社に入社。
月刊誌『日経トレンディ』記者として、食品・飲料、日用品、小売業界などを担当。2023年4月に「日経クロストレンド」編集長となり、フードテックなど、新領域の取材を重ねてきた。
2025年4月より現職。
新規性・影響力・売れ行き 3つの視点でヒットを捉える
ヒット商品やトレンドは、ある日突然現れ、瞬く間に広がるように見えます。しかし、流通や編集の現場では、生活者の小さな変化や開発現場の気づきが時間をかけて積み重なり、ある時点でヒットやトレンドとして形になる――そのようなプロセスとして捉えられています。そのため、売上ランキングに現れたりSNSで話題になったりする前に、現場では既に「少し空気が変わってきた」という感覚が共有されていることも少なくありません。
『日経トレンディ』「日経クロストレンド」に長年携わり、年末恒例企画「ヒット予測」を手がけてきた勝俣氏も、「ヒットを語る時は、必ずこの“ヒットとして形になる手前の時間”に言及する」と話します。では、『日経トレンディ』では、ヒット商品やトレンドキーワードをどのように選定しているのでしょうか。
勝俣氏「ヒット商品を選定する際は、最初から『これは当たりそうだ』と決め打ちせず、情報を集めていきます。判断基準は主に3つ。まず見るのは“新しさ”です。これは奇抜さではなく、画期的な技術や着眼点により“生活の中に新しい選択肢を持ち込んでいるか”という意味での視点です。
次に注目するのは、その新しさがどこまで広がる可能性を持っているのか。それが一部の人の間だけで終わるのか、人々の行動や習慣を変えていく力を持っているのか――その“伸び代”を意識して見極めます。そして、売れ行き。販売計画や各種調査データを通じて、売上規模も確認します」
新規性・影響力・売れ行き。この三つのバランスをよく見ながら、「なぜ今、この商品なのか」という時代背景や生活者の気分を読み解くことが、“点のヒット”ではなく、“流れをつくる商品やキーワード”の選定につながっていきます。
新たなヒットの手がかりは「小売りの現場」に
ヒットをどう予測するのか――そのプロセスを勝俣氏に聞いてみました。
勝俣氏「卸の方やスーパーのバイヤーさんなど、さまざまなジャンルの人に会い、『今年はこれが流行ったけれど、来年は何が来るんだろう?』という会話を繰り返します。その場で明確な答えが出ることはほとんどありませんが、『なんとなく、こういう空気がある』など、ヒットの兆しは言葉になりきらない感覚として先に現れると感じています」
ヒットはピークに近付いたタイミングで、次の芽が動き始めています。こうした感覚は、売場を見続けてきた人たちに根付いているものであり、ヒットを読む大きな手がかりとなるのです。
2025年ヒット商品に共通する「ロジカル消費」と「記憶の資産化」
2025年のヒット商品を振り返ると、いくつかの共通点が見えてきます。
大阪・関西万博の公式ライセンス商品や Nintendo Switch 2 など、既に世界観が広く共有されていた商品は、盛り上がることがある程度想像できました。
勝俣氏「新しいから選ばれたというより、“失敗のリスクが低く、確実に盛り上がると保証されたもの”が選ばれました。選択や購入の理由が明確なものにお金を使う「ロジカル消費」につながりますが、背景には物価高だけでなく“選ぶことへの疲れ”があることも考えられます。AIや世間の多数派が『これはいい』と判定し、一定の評価が確立されたものが選ばれる傾向です。
また、2025年の消費を特徴づけたもう一つの動きが「記憶の資産化」です。「たまごっち」、女児向け玩具菓子「セボンスター」など平成レトロアイテム、過去のゲーム・アニメIP(知的財産)を活用した商品やサービスが代表例です。
一見すると、懐かしさに訴える消費のようですが、SNSを通じて“エモい”という感覚が可視化され、世代を超えて話題化した点がユニークです。大人世代にとっては、説明しなくても通じる安心感も消費につながっています」
選択肢が増え続ける中で、生活者は“選ぶ行為そのもの”を負担に感じ始めています。タイパ志向が進むと、最終的には「自分で選ばない」という選択に行き着く。レビューで評価が可視化された商品や、「これを選べば間違いない」と共有されている定番が、判断を委ねる先として機能しているのです。
2025年ヒット商品ベスト10
ヒットは突然生まれるものではなく、小さな変化の積み重ねの先に現れる。その視点を持つことが、これからの市場を読み解く上で欠かせません。そして、2025年のヒットからは、「新しいから選ばれる」のではなく、「選ぶ理由が明確で、失敗しにくいものが選ばれる」という、生活者の意識の変化が見えてきました。第2回では、こうした流れを踏まえながら、2026年最新のヒット予測と今後の売り場の役割をリポートします。
※本記事は、イオングループ内マーケティングレポート「イオンのアンテナ」をもとに抜粋・再構成したものです。
聞き手プロフィール
流通科学大学教授 白鳥和生氏
1990年日本経済新聞社入社。速報部や消費産業部などを経て、2014年より調査部に所属。小売や外食、食品メーカー、流通政策を長年取材。日本経済新聞や日経MJのデスクも歴任。小売や食に関する著書も多数。
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