トレンドレポート
2026.02.05
寝具からドリンクまで拡大!睡眠トレンドから小売の勝ち筋を探る
目覚め始めた「睡眠」市場・第2回


睡眠関連市場の拡大は、一過性のブームではなく、生活者の意識変化と新しいトレンドを映しています。第1回では、なぜ今「睡眠の質」が注目されているのかを紹介しました。第2回では、具体的に注目されているアイテムやサービス、そして小売にとってのチャンスと戦略を探ります。
西川株式会社
日本睡眠科学研究所 所長
野々村 琢人氏
西川株式会社
日本睡眠科学研究所 所長
野々村 琢人氏
理学修士、技術士(情報工学、総合技術監理)。東芝入社後、ソフトウェア工学やIoT技術などの研究開発に従事。西川(株)の研究所長に就任し、睡眠生理や寝具、SLEEP TECH®の研究開発を推進。睡眠/PHR(Personal Health Record)のデータ標準化WGなどを通じてヘルスケアデータ整備・連携にも注力している。日本睡眠学会・産業衛生学会・日本技術士会・情報処理学会などで活動中。
https://www.nishikawa1566.com/company/laboratory/
広がる睡眠市場、スリープテックが牽引する進化と多様化
生活者の間で「質の高い睡眠」への関心が高まる中、寝具だけでなく、睡眠改善をうたう食品やサプリ、リカバリーウェアなども人気を集めています。さらに、スマートウォッチやスマートリングなどの睡眠計測デバイスが普及し、個人の健康管理におけるデータ活用が一般化しつつあります。睡眠市場は、こうした製品に加え、医薬品や体験型サービスにまで広がりを見せています。
●睡眠関連の製品・サービス
中でも、テクノロジーを活用して睡眠を科学する「スリープテック」が成長の軸。睡眠状態のモニタリング、周辺環境の最適化といった多様なアプローチで急速に進化を遂げています。
「睡眠」アイテムは枕が人気トップ、飲料も選択肢として定着
「nishikawa 睡眠白書2025~日本人の睡眠調査~」によると、実際に睡眠改善に効果があったアイテムとして最も多かった回答は「枕」で、39.4%を占めました。次いで「マットレス」が23.1%と続き、寝具の重要性が改めて示されています。
「飲料」も3位に入り、機能性表示食品が新たな選択肢として定着しつつあることが推察されます。睡眠の質を高めるためのアプローチが、寝具だけでなく食品や飲料にも広がっている点が特徴的です。
●Q 直近2~3年で睡眠の質を高めるために新しく購入・取り入れ、睡眠の質が改善したものはありますか?
(新しく購入・取り入れたものがあると回答した人の中の割合)(n=654)
今後購入したいアイテムとしては「オーダーメイド枕」が31.3%と最も高く、個々のニーズに合わせた商品への関心が高まっています。加えて、「リカバリーパジャマ」が6位にランクインしており、昨今の注目度が反映されていることがわかります。
● Q 直近2~3年で睡眠の質を高めるために、新しく購入・取り入れたいものはありますか?
(今後購入したい・取り入れたいものがあると回答した人の中の割合)(n=756)
※1.既製品
※2.冷感性、吸湿発熱性などの機能素材を使った寝具
※3.アロマミスト・アロマオイルなど
※4.入浴剤・バスソルトなど
※5.ホットアイマスク・湯たんぽ・靴下など
※6.GABA・クロセチン・テアニン・ぐっすりんなど
※7.GABAフォースリープなど
※8.ヤクルト1000・ネルノダなど
スリープテックが描くデジタルとリアルの融合
近年の睡眠市場を牽引しているのは、テクノロジーとプロダクト設計の融合です。nishikawaでは早くから「SLEEP TECH®」を掲げ、センサーを内蔵し、寝るだけで心拍や呼吸を測定できるマットレスや、特殊構造で睡眠の質を改善する枕などを展開。取得したデータをもとに、利用者の体調や生活リズムに合わせた最適な寝具を提案しています。
アプリで数問に答えると、最適な枕やマットレスがレコメンドされ、実店舗で試せる体験型購買も導入。リアルとデジタルを結びつけた購買体験が、消費者の納得感を高めています。
●枕
睡眠の質向上ニーズから、高機能枕が人気。オーダーメイドや体型・寝姿勢に合わせた設計、首・肩の負担軽減を重視する商品が増加。nishikawaなど老舗ブランドが牽引し、パーソナライズ化が加速中。
●マットレス
体圧分散や通気性に優れた高機能マットレスが人気。nishikawaの「AiR[エアー]」は凹凸構造で血流促進と快眠をサポートし、アスリートや健康志向層に支持されている。
さらに、店頭では寝姿勢や体圧を測定し、専門スタッフによるカウンセリングを受けながら選べる仕組みも整備。デジタル技術が人の接客を補完し、体験価値を深めています。こうした接点の積み重ねが、ブランドへの信頼とファン化を生み出しているのです。
“体験して選ぶ”時代へ 広がるリカバリー・ウェルネス市場
いびきや無呼吸症候群に対応する「横寝サポート枕」や、深呼吸を促すぬいぐるみ型デバイスなど、健康課題に直結する製品も増えています。
遠赤外線素材を用いたリカバリーウェアは、アスリートだけでなく一般層にも広がり、“整える時間”を支える存在になりつつあります。睡眠を単なる休息ではなく、心と体の状態を回復させる時間と捉える考え方が、若年層や女性層を中心に浸透してきました。
さらに、入浴や照明、香りを組み合わせた“就寝前ルーティン”も広がり、睡眠は「夜だけの行為」から「一日の整え方」へと進化しています。
一方、サブスクリプション型の寝具サービスも注目を集めています。初期費用を抑え、合わなければ交換できる仕組みは、若年層や単身世帯にフィット。こうした“体験して選ぶ”購買モデルは、モノを持つ時代から“体験を楽しむ時代”への転換を象徴しています。
睡眠改善の「入口」として機能性食品は生活者に身近な存在
食品分野では、「ヤクルト1000」などの飲料やGABA入りチョコレートなど、睡眠の質向上を訴求する機能性商品が次々に登場。野々村氏は「食品やサプリは特効薬ではなく、生活全体の底上げを支えるもの。1つ1つのアイテムだけで解決するものではありませんが、睡眠に関心を持ち、生活を見直すきっかけとしては意味がある」と語ります。
食品は補助的な存在ではあるものの、手に入りやすく、比較的安価で、生活者にとって取り入れやすい入口です。無理なく続けられる習慣として、睡眠改善の第一歩になり得ます。生活者にとって「始めやすい」選択肢であることは、小売にとって売れるカテゴリーになる可能性は大きいと言えるでしょう。生活改善ニーズの高まりを背景に、機能性をうたった食品は新たな収益源として成長余地を秘めています。
イオンマーケティングによるデータ検証例
話題の「睡眠ドリンク」は本当に売れている?
睡眠ドリンク市場は、2022年には「ヤクルト1000」と「ピルクルミラクルケア」の2商品が中心だったが、徐々に各メーカーが開発・販売を進めた結果、乳酸菌飲料の売上の約2割を占めるまで拡大した。
2023年10月に「おいしい免疫ケア」シリーズから、免疫ケアに加えて睡眠の質も向上させる睡眠ドリンクが発売された。同時期「ピルクルミラクルケア」シリーズから飲むヨーグルトタイプが登場した。
2024年4月末には「PLUSカルピス」シリーズから睡眠・腸活ケアが登場。さらに「PLUSカルピス睡眠・腸活ケア」は、2025年9月末に希釈用も販売を開始した。
2025年は飲料界隈で希釈タイプが流行し、『日経トレンディ』のヒット商品でも10位に「アレンジ系希釈飲料」がランクインした。飲料業界全体での流行りが睡眠ドリンク市場にも波及している。
●睡眠ドリンクの売上・シェア推移
睡眠課題の解決は、小売業の新たなビジネスチャンス
睡眠不足は個人の健康問題にとどまらず、記憶力低下や生産性低下、居眠りによる事故など、社会全体に大きな損失をもたらす危険性をはらんでいます。こうした日本全体の睡眠課題を解決するために、小売業が果たせる役割は非常に大きいといえます。
近年、睡眠の質向上への関心は高まり、オーダーメイド枕やリカバリーパジャマなど新たな商品カテゴリーが拡大しています。ただ、枕やマットレスなどでは“質”を重視した商品が選ばれる傾向が強まる一方で、睡眠改善行動を実際に行っている人は4割にとどまり、行動変容にはハードルがあることも明らかです。
こうした背景を踏まえ、売場での訴求は、睡眠に関する正しい知識を伝えたり、行動を起こしやすくする仕掛けを強化することが重要になるでしょう。
●企業の生産性を上げる「ちょっと寝ルーム」とは?
nishikawaが提案する企業向け仮眠スペースで、昼間の15~20分程度のパワーナップ(短時間仮眠)を快適にとれる環境を整えます。音・光・香りを制御し、30度傾斜の専用ベッドやパーソナルスペースを確保。午後の眠気を防ぎ、集中力や作業効率を高めることで、健康経営や職場の生産性向上に貢献します。nishikawaの本社内にも設置され、多くの社員が積極的に活用しています。
※本記事は、イオングループ内マーケティングレポート「イオンのアンテナ」をもとに抜粋・再構成したものです。
聞き手プロフィール
流通科学大学教授 白鳥和生氏
1990年日本経済新聞社入社。速報部や消費産業部などを経て、2014年より調査部に所属。小売や外食、食品メーカー、流通政策を長年取材。日本経済新聞や日経MJのデスクも歴任。小売や食に関する著書も多数。