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トレンドレポート

2025.11.28

気象が変える買い物行動――“二季時代”の小売に必要な視点とは

異常気象が動かす消費のリアル・第1回

異常気象が当たり前になりつつある今、気温や天候の変化が生活者の購買行動に及ぼす影響はますます大きくなっています。もはや季節の“前触れ”を待つのではなく、気象の動きを先読みして売場づくりや商品戦略に活かすことが、生活に密着した小売業の競争力を左右する時代です。異常気象時代の小売業の新たな勝ち筋を探ります。

株式会社True Data 
流通気象コンサルタント 
気象予報士
常盤 勝美氏

株式会社True Data 
流通気象コンサルタント 
気象予報士
常盤 勝美氏

大学で気候学、気象学を専攻した後、民間の気象会社で約20年にわたり、スーパー、コンビニ、食品メーカーなどに対するウェザーマーチャンダイジング関連サービスに従事。2018年にTrue Dataへ入社し、気象データマーケティングを推進している。 著書に『だからアイスは25℃を超えるとよく売れる』(商業界)など。ブログ「常盤勝美のお天気マーケティング」
https://www.truedata.co.jp/blog/category/weather_marketing

「秋の短縮」と「春の消失」変化は生活と購買に直結する

2025年の夏、日本列島は「記録的な暑さ」「短期間の集中豪雨」(気象庁発表)といった極端な気象現象に見舞われました。西日本では6月中に梅雨明けする地域も多く、例年よりも早く猛暑モードに入ったことで、生活リズムや消費行動にも大きなズレが生じています。

近年、日本では「秋の短縮」「春の消失」「冬の高温化」といった傾向が定着しつつあります。国連のグテーレス事務総長が「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代が到来した」と警鐘を鳴らしたように、気候変動は抽象的な環境問題ではなく、私たちの日常に直結する現実的なリスクとなっています。

こうした中で、小売・流通業界においては、天気や気温の変化に基づいて売場や商品展開を機動的に調整する“気象対応力”が、新たな競争軸になりつつあります。

●気象により影響を受ける3つの商品分類

災害級の気象変化と小売に求められる対応力

近年は、猛暑・ゲリラ豪雨・短時間のドカ雪などが“災害級”とされ、気象庁の警戒情報により外出を控える要請や公共交通機関の計画運休が常態化しています。小売業も客足が減少するため、品揃え調整が求められるなど気候変動への対応が急務です。

一方、屋内環境の快適化は進み、冷暖房完備の室内では「夏に防寒」「冬にアイス」など季節感に左右されない消費行動が増加します。また、気候変動は農産物・海産物・乳製品などの供給にも影響を及ぼし、原材料調達や流通にも影響します。中長期的には果樹など農作物生産地の北上傾向、短期的には畜産・酪農関係の動物の生育にも悪影響を及ぼすことがあり、価格高騰の可能性も考えられます。

地球規模での気温上昇は今後も続くとされ、小売業にはリスクヘッジと機会創出の両面での対応が求められます。気象情報の高度化を活用し、変化をチャンスと捉える姿勢が重要です。

「気象×購買データ」から購買行動の変化が見える

流通気象コンサルタントの常盤氏は「気温や湿度の小さな変化が、売場の数字に如実に表れる時代です」と語ります。たとえば30℃を超えると水分補給系の商品が動く35℃を超えると来店自体が減るといった、気象条件と購買行動の関係がデータからも明らかになっています。

それ以外にも、アイスクリームは最高気温が16℃を超える4月頃から売上が伸び始め、25℃を超えるとその伸び率がさらに大きくなるといった二段階で購買動向に変化が見られる例もあります。

●寒いと売れるもの・暑いと売れるもの

一方で、かつて夏の定番だったスポーツドリンクやUVケア商品が暑すぎて頭打ちになる現象も起きています。また、2016年には気温の変化に応じて売上が動く「商品前線」が明確に存在していたカテゴリーの一部が、近年では“季節の波形”を描かなくなってきていると指摘しています。

「商品前線」とは、気温と商品の売上の関係を可視化した図のことです。
「気温が25℃を超えると売れ始める」といった、気温の変化に応じて購買が動き出すタイミングを示す指標で、売場づくりや販促の判断材料に活用されます。

●ささみ前線 【変局温度】17℃↑

鶏肉の中でも脂質が少ない部位。気温上昇により食欲を刺激し、代謝を促進する作用がある。春先の3月頃から北上を開始。桜の開花より少し早いタイミングが目安。

●ボディローション前線 【変局温度】26℃↓

乾燥対策として使われるため湿度が指標になりそうだが、日本では気温低下と共に乾燥が進むため、販売強化の目安として気温でも大きなズレはない。

ただし、商品前線は地域ごとの売場展開時期を示すもので、売上を直接予測するものではありません。記録的な高温・低温の年は、前年の天候や長期予報を参考にして、柔軟に判断する必要があります。

“長い夏”に対応するための新しい売場設計

こうした現象の背景には、異常気象による季節感の曖昧化や生活パターンの変化や多様化があり、従来の「何月に何が売れる」という定石が通用しなくなってきています。

今後は「夏の立ち上がりが早く、暑い期間が長い、つまり「春と秋の消失」「二季化」といった気候変化を前提に、売場企画も“二季対応型”へと進化させる必要があります。具体的には気温・湿度・天候・時間帯など、複数の指標に基づいた売場調整が不可欠です。

気象と購買データから「売れ筋」のタイミングを見極められます

「商品の売れ筋を見極めるには、複数の気象要素と購買履歴の関係性を継続的に捉えていく視点が求められます」(常盤氏)

 

暑さが長期化する中で、企画や商品の変化が乏しくなるリスクも指摘されています。そこで重要なのが、季節を細かく分割して捉える視点です。

たとえば「夏と夏に近い秋」「冬に近い秋」といったフェーズを設定し、それぞれに合わせた商品展開を工夫することが求められます。たとえば鍋商品の場合、暑さが残る時期には、「トマト鍋」「レモン鍋」などさっぱり系を提案し、徐々にこってり系へ移行するなど、“季節の中の季節”を捉えた仕掛けが効果を発揮します。

ただし、「需要を先取りしようと商品の投入時期を早めすぎると、かえって売れないという難しさがあります。生活者の感覚や心理とずれると逆効果になりかねないため、気象予報だけでなく、地域ごとの天候推移や過去の販売データを踏まえ、最適なタイミングを見極めることが成功のカギとなります。

こうした、気象の変化をどう売場づくりや商品戦略にどう活かすのか?第2回では、気象×POSデータによる“売れ筋”の変化や、気象を味方につける販促・商品戦略のトレンドを探ります

 

※本記事は、イオングループ内マーケティングレポート「イオンのアンテナ」より抜粋・再構成したものです。

聞き手プロフィール

流通科学大学教授 白鳥和生氏

1990年日本経済新聞社入社。速報部や消費産業部などを経て、2014年より調査部に所属。小売や外食、食品メーカー、流通政策を長年取材。日本経済新聞や日経MJのデスクも歴任。小売や食に関する著書も多数。