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トレンドレポート

2025.11.28

進化する鍋料理――注目キーワードは「省力」「個食」「濃い味」

変わりゆく「鍋」のトレンド・第2回

「鍋」は、社会や暮らしの変化を映す鏡。第1回では、流行の鍋から見える生活者の変化や、ライフスタイルの移り変わりを紹介しました。
第2回では、生活スタイルの変化に伴い、今どのような鍋がトレンドなのか、進化した鍋トレンドを読み解きます。

株式会社ひめこカンパニー 
代表取締役
女子栄養大学客員教授 
山下 智子氏

株式会社ひめこカンパニー 
代表取締役
女子栄養大学客員教授 
山下 智子氏

学生時代から食に関わる仕事を始め、1988年に会社を設立。食品や飲料の商品開発、コンビニやデパ地下の惣菜開発、飲食店のプロデュース、スーパーの戦略策定など、食業界や流通業界全般に渡り幅広く活動。フードコーディネータースクールで20年以上教鞭をとり、人材育成にも尽力。99年より「食のトレンド情報」を配信。毎春、その年の食市場のトレンドをまとめた相関図を公表している。
https://himeko.co.jp/

省力・個食・濃い味が主流に 進化する“満足鍋”の現在地

近年は、評論家・樋口恵子氏が提唱する「調理にも定年を」という言葉に象徴されるように、年齢やライフステージに応じて「料理をがんばりすぎなくていい」「無理せず休んでもいい」という “調理休活”の考え方が広がっています。

山下氏は「鍋はその時々の社会を写すスクリーン」と語り、省力化や節約を意識した鍋が支持されている背景は社会や生活者にあると説明します。

実際、大手調味料メーカーは1人前や減塩タイプの鍋用調味料を次々と投入し、専業メーカーもユニークな新商品を開発。鍋市場は多様なニーズに応える方向へと進化しています。

味の好みにも変化が見られます。かつて主流だったポン酢やごまだれに加え、豚骨や濃厚味噌といった“わかりやすく強い味”が若い世代に支持され、スパイス系や韓国系の鍋も人気を集めています。鍋は今、「自由に選べて、無理をせずに満足できる」料理へと進化しているのです。

食市場にも「キャンセル界隈」は来ています

「食の分野では、『風呂キャンセル界隈』ならぬ『コンロキャンセル界隈』が注目されています。コンロを使わず、電子レンジや電気ポットのみで食事の支度を完結する合理的な調理方法は、若者だけではなく幅広い層に浸透しています。電子レンジで調理できる鍋は、“コンロを使わない”という選択を肯定してくれる存在ですね」(山下氏)

 

「濃厚系」と「省力系」二つの方向に進化するこの冬の鍋

このシーズンの鍋を象徴するのは、「濃厚さ」と「省力化」という、一見関連しない二つの流れです。

近年は鍋を主菜としてご飯と一緒に食べるスタイルが一般化し、それに伴って鍋用調味料の味付けも濃いめに設計される傾向が見られます。

また、一肉一野菜型のシンプル鍋が広がったことで、具材から十分なうまみが出にくくなり、スープ側で味を補う必要が出てきました。その結果、とろみ系や濃厚スープが好まれるようになり、特に若い世代には“わかりやすい”濃い味が支持されています。モランボンの「しゃぶしゃぶのつけだれ 魚介とんこつ味」は、具材が少なくても味の満足感を補ってくれます。また、最初からご飯や麺などの「〆(しめ)」を投入したり、〆を前提としない鍋メニューも登場しています。

魚介とんこつ味など若年層に響く濃厚な「つけ麺」風を意識。

一方で、忙しい日常の中では、調理の手間を減らしたいというニーズも高まっています。

その結果、電子レンジ対応の鍋用調味料や1人前ポーションタイプの商品も普及するようになりました。ヤマキの「サッと鍋®」、シマヤの「粉de鍋」など顆粒タイプは、必要な分だけさっと溶け、味の調節もしやすいと支持を得ています。

顆粒タイプなので、食べている途中でも好みの味に調節できる。

また、キッコーマンの「芯からぽっと」シリーズは電子レンジ対応を打ち出し、省力化と温活を両立させた提案として注目されています。こうしたメーカーによる多様な展開は、そのまま生活者の「安心」と「便利さ」につながっています。

1~2人分パウチで生姜、唐辛子など温まる具材が入った温活鍋。

また「夏鍋」「ぬく鍋」といった新しいスタイルも登場しています。「暑い時期でも、エアコン冷えから少しだけ体を温めたい。そんな場面に合う鍋はまだ提案の余地がある」と山下氏は話します。気温や気分に合わせて鍋メニューを柔軟に取り入れる動きは、冬だけの料理という従来のイメージを超えつつあります。鍋は「寒い日に食べる料理」から「暮らしのシーンに寄り添う料理」へと変わりつつあるのです。

イオンマーケティングによるデータ検証例

「鍋のつゆ」手作り派 vs 市販派の傾向を分析

インテージ社の「キッチンダイアリー」をもとに、家庭で鍋料理を作る際に「つゆを手作りするか」「市販品を使うか」を調査したところ、市販の鍋用調味料(液体、固形、粉末など)の使用率は全体では31.3%。ただし、鍋の種類によって使用傾向に違いがあることがわかりました。

●市販の「鍋用調味料」が使われる鍋ランキング

※2024年5月~2025年4月

※2024年5月~2025年4月

特に豆乳鍋では、市販のつゆ使用率が高く、74%が既製品を利用。手軽さや味の安定性が背景にあると考えられます。

また、チゲ鍋・キムチ鍋・坦々鍋など、複雑な調味料や香辛料を必要とする鍋についても市販の鍋用調味料の使用率が高く、家庭での再現が難しい味を手軽に楽しみたいニーズに応えています。

一方、寄せ鍋や水炊きなどシンプルな味付けの鍋では、だしを取るなど手作りする家庭も一定数存在し、鍋の種類によって「つゆの手作り率」に差があることが明らかになりました。

手作りが難しい鍋については、味の再現性と簡便性が重視されており、鍋用調味料の利用が多く、気に入るとリピート購入につながる可能性が高いと考えられます。

具材はもやし、鶏むね肉などヘルシー&節約食材が伸長

「キッチンダイアリー」をもとに、家庭で鍋料理に使われる具材の変化を調査したところ、使用率が増加した具材として「もやし」「豚バラ肉」「鶏むね肉」「鶏がらスープの素」が挙げられます。

●「鍋の具材」使用率 前年比ランキング

鍋全体を100としたときの各具材の使用割合を、昨年と今年で比較し、使用率の増減を分析

※2024年5月~2025年4月

特にもやしは、安価でボリュームが出しやすく、白菜や長ねぎなどの定番野菜の使用率が減少する中で、代替食材として注目されています。「もやし鍋」といったメニューも登場しており、節約志向の高まりが背景にあると考えられます。

肉類では、豚バラ肉の使用が安定する一方で、鶏肉は「もも肉」から「むね肉」へのシフトが見られました。むね肉は価格が安く、ヘルシー志向にも合致するため、家計や健康を意識した選択が影響していると考えられます。

また、調味料では「鶏がらスープの素」などの顆粒だしの使用が増加。つゆの濃さや量を自分で調整できる点が支持されています。さらに、ソーセージなど下ごしらえ不要の食材も一定の支持を集めており、調理の手間を省きたいニーズが反映されています。

 

※本記事は、イオングループ内マーケティングレポート「イオンのアンテナ」をもとに抜粋・再構成したものです。

聞き手プロフィール

流通科学大学教授 白鳥和生氏

1990年日本経済新聞社入社。速報部や消費産業部などを経て、2014年より調査部に所属。小売や外食、食品メーカー、流通政策を長年取材。日本経済新聞や日経MJのデスクも歴任。小売や食に関する著書も多数。